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宇都宮地方裁判所 昭和33年(わ)281号 判決

被告人 鈴木恒好

昭八・一・一〇生 農業

主文

被告人を懲役一年二月に処する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となる事実)

被告人は宇都宮市塙田町岡川貨物自動車株式会社に雇われ、貨物自動車運転の業務に従事していたものであるが、その間

第一  昭和三三年七月二〇日積荷約二トンを搭載した同会社所有の普通貨物自動車栃一あ〇六三四号(積載許容重量五トン)を運転して福島市方面から宇都宮市方面に向け、国道奥州街道を南進中、同日午後八時二〇分頃郡山市坦の越町五二番地先十字路にさしかかり、これを直進しようとしたのであるが、この自動車はかねてから制動装置が不完全でブレーキの利きが悪く(ブレーキペタルを一回踏みつけただけではブレーキの利きが非常に悪く、ブレーキペタルを一回踏みつけて急に放し、すぐに二回目を踏みつけるとブレーキの利きがややよくなる)、その上積荷が重ければ重い程ブレーキの利きが一層悪くなり、突嗟の場合急停車するためには極めて低速で運転しなければならないような故障車であり、被告人はこの故障及び積荷量を福島市出発当時から知つていたのであるから、かかる故障車をやむなく運転する場合(この種故障車を運転してならないことは勿論であるが、本件は故障車運転による無謀操縦の罪責を問うのではない)においては、危急の際あわててブレーキペタルを一回しか踏むことができない場合でも直に急停車ができるよう一層徐行(前記積荷を搭載した本件自動車が仮に制動距離七米以内で止まるためには時速約一五粁以下であることを要する)して進行するとともに、絶えず進路の前方及びその左右の状況を注視し、以て衝突等の事故発生を未然に防止しなければならない業務上の注意義務があるのに拘らず、これを怠り、漫然進路左前方に対する注視不十分のまま時速約三二粁で前記十字路を直進したため、折柄進路前方約一〇米の所を左から右に自転車に乗つて横断しようとする戸崎利子(当時四二年)の姿を発見するや、あわてて急停車の措置(アクセルペタルを放して急にブレーキペタル及びクラツチペタルを踏みつけたが、あわててブレーキペタルを一回しか踏まず)を講じたが、ことすでに遅く右間隔内で停車することができず、過つて右自動車の前部を同人の頭部等に激突させた上、同人を地上に転倒させ、よつてその頭蓋底骨骨折により同人を即死するに致らしめ

(第二乃至第九)〈省略〉

たものである。

(証拠)〈省略〉

(法令の適用)

被告人の判示所為中、第一の業務上過失致死の点は刑法第二一一条前段罰金等臨時措置法第三条第一項第二条第一項に該当し、第二以下の各窃盗の点はそれぞれ刑法第二三五条第六〇条に該当する。よつて右業務上過失致死の点については所定刑中禁錮刑を選択し、以上は同法第四六条前後の併合罪の関係にあるから、同法第四七条本文第一〇条によりその内最も重いと認める判示第九の(二)の窃盗罪の刑に法定の加重をなし、その刑期範囲内において被告人を懲役一年二月に処し、訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項本文により、全部これを被告人の負担とする。

以上の理由により主文のとおり判決する。

(裁判官 堀端弘士)

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